英語によるコミュニケーションのスタイル


英語のスタイルと基本ルール

日本語とは対照的な英会話では、外国人にとって分かりやすい会話をするためには、次の実践的ルールを守ることが重要になります。

1) 相手が話題を提供したら自分もかならず話題を提供すること

2) 会話を続けるための質問は連発しないこと

3) 言いたいことは詳しく説明し、漠然とした印象で話さない

これらのルールは実際に会話をする場合になくてはならないものですので、ここでは一つ一つ詳しく説明してみましょう。

ルール1 相手が話題を提供したら自分もかならず話題を提供すること

挨拶の段階が終わると、今度は会話を盛り上げるために共通の話題を設定します。英会話とは、互いに異なった意見や気持ち、さらに感情の持ち主が相互に同意できる基盤を、会話することを通して見つ出すのですから、共通の話題を発見することは重要です。何の話題も共有できないとなると、会話は成り立ちようがありません。共通の話題は、パートナー相互が話題を提供し合うことで見つけ出してゆきます。

ですから、相手が話題を先に提供したのなら、今度はあなたが話題を提供する義務を負うことになります。英会話は、日本語のように話し手と聞き手に役割が一方的に分裂することはなく、会話はパートナー同士の対等の関係を基に進行します。パートナーは相互に話題を提供し合うことによって会話を盛り上げて行くのがルールです。

例えば、例文の会話では外国人が自分の週末の体験について最初に話しています。会話を盛り上げるためにはあなたも話題を提供しなければなりません。上の会話は高尾の旅館についての会話でした。この場合、あなたには次の五つの話題について話すことができます。これらの話題であれば問題もなく相手と共有することができるでしょう。

(1)自分の週末について(2)高尾について(3)印象的なホテルや旅館について

(4)休日一般について(5)温泉について

英会話で人間関係をスムーズに形成するためには、相手の提供した話題に瞬間的に反応して話しを展開できなければなりません。

ところで日本では、外国人は自己主張が強いというのが定説になっています。確かにそうした側面

もありますが、多くの場合この印象は外国人の話題の提供スタイルを誤って自己主張と取り違えたことから来てきているように思われます。実際は、外国人が自分の経験や体験を話すことは、相手に気を使う彼らなりの方法なのです。先に話題を提供して相手を楽しませ、そして会話を盛り上げることで両者の信頼関係を深めるために行っているのです。決して単なる自己主張ではないのです。したがって、あなたが話題提供の義務を怠ったのなら、それは相手に気を使わないことを宣言し、人間関係を作らない決意を表明したことと同じなのです。

ルール2 質問を連発しないこと

日本語の会話では、会話が話し手と聞き手に分かれるので、聞き手が一方的に質問することは当たり前です。失礼な質問でない限り、質問は逆に相手に気を使っていることの現れとして受け取られます。

反対に英会話は話題の交換で進行して行くのが原則なので、一方的に質問を連発することなどありません。英会話は、共通の話題を通して相互に同意できる基盤を発見するためのプロセスです。相互に相手を理解するためには、自分の気持ちや考えを相手に知ってもらうことがとても重要になります。ですから、自分の発言を抑制し、相手に気を使って質問を連発することなどほとんどないと考えてください。 

英会話で質問をする場合は次の三つに限られます。

(ア)相手の言っていることが本当に分からないか、自分が特に知りたい内容があるとき
(イ)挨拶などの会話の始め 
(ウ)相手と打ち解けた人間関係が出来ておらず、相手のことが分からないとき

こうした場合は確かに外国人でもよく質問をします。しかし日本語と大きく異なることは、会話が始まり一度話題の交換が開始されると、上記の(ア)の動機以外では質問をしなくなるということです。

ルール3 最重要! 言いたいことは詳しく説明し、漠然と話さないこと

これは日本人にとってもっとも難しく、また、英会話のルールの中でも最も重要な点です。

くどいようですが、英会話とは、互いに異なった意見や気持ちの持ち主が、相互に同意できる基盤を会話することを通して見つけて行くプロセスです。相手が分かるように、丁寧に説明しない限り相手はあなたの言いたいことを理解はしないのです。

この理由から、英会話は日本語の会話に比べてはるかに具体的にならざるお得ません。自分の印象、

例えば「好きだ」「嫌いだ」「良い」「悪い」などといったことを何の説明もなく発言するとなどあり得ません。なぜ自分がそう思ったのか、そう思うようになった経緯は何だったのか、かならず細かく説明します。これが「丁寧に説明すること」の中身です。

これを分かりやすく説明するために、英語スタイルの会話を日本語で行ったのならどのようになるのか見てみましょう。

日本語のスタイル

A:クリスマスの時期って街中でジングルベルが聞こえてくるでしょう。あれ聞くと私ね、何か寂しい気分になるの。

B:へぇー珍しいね。私はクリスマスだなってウキウキしてくるけどな。

英語のスタイル

A:クリスマスの時期って街中でジングルベルが聞こえてくるでしょう。あれ聞くと私ね、何か寂しい気分になるの。私のような40代の世代って60年代に子供時代を過ごしたでしょう。あの頃はすごく貧しかったわけではないけど、今ほど豊かな生活はしていなかったのね。テレビも白黒だったし、家はすごく狭かったし、食事も粗末だったしね。まだみんな生活に追われていたのよ。そして暮れになると親は借金の支払いやら仕事やらで急に忙しくなって、家を空けるときが多かったの。よく一人で留守番させられたものだわ。そんな時ジングルベルが聞こえてきたのよ。一人で           留守番して寂しい気持ちになっていたときに明るい音楽が聞こえるから余計寂しくなるのよ。だから今でもジングルベルを聞くとその頃の記憶が甦ってきて寂しくなるの。

この例からも英語の会話ではなぜ長く話すことになるかが分かると思います。ここまで細かく説明しない限り相手はあなたの印象や気持ちを理解しない、とうことなのです。

この点は非常に重要なので後で詳しく説明します。


では日本語の会話のルールは?

これで英会話の大まかな流れをつかんでもらえたと思います。さて今度は、比較のために日本語の会話を見てみましょう。

先にも説明したように、日本語の会話では、集団の和を維持する必要から、会話では相手に同意していないことを表明するのは極力避けようとします。この結果、次のルールが生まれました。

1) 共通のトピックスが定まるまでの間、会話は聞き手と話し手に分かれ、ときどき役割を交代する。

2) 相手と同意しやすくする必要から印象はあえて具体的に説明しない。

以下で詳しく説明します。



1) 共通のトピックスが定まるまでの間、会話は聞き手と話し手に分かれ、ときどき役割を交代する。

挨拶の後、日本語ではすぐに質問のやり取りが始まります。話題の提供がすぐ始まる英会話とは対照的です。おそらくこれは、日本語が同意を前提にした会話であるために、自分の方から積極的に同意できる話題を見つけないことには会話が始まらないので行うのでしょう。

確かに英語でも場面によっては質問をよくします。特に初対面の相手と会話する場合は、相手が何に興味をもっているのか分からないために、興味の対象を発見しようとして質問します。しかし日本語の会話の質問と大きく異なる点は、英語では共通のトピックスを見つけるために質問をするのであって、日本語のように相手と積極的に同意するためではないのです。その証拠に、相手がいったん話題の提供を始めたなら、英語では意味のない質問は差し控えます。質問は先に示した三つの場合以外にむやみやたらとしません。

2) 相手と同意しやすくする必要から印象はあえて具体的に説明しない。

英語とは異なり、相互の同意を失わせるどんな機会もできるだけ避けようとするのが日本語の会話の原則です。日本人は相手との不同意を表明するのが苦手です。

英会話と日本語のそれとのもっとも大きな違いは、日本語では印象を具体的に説明しないことです。印象を具体的に説明するとは、話題に関して自分がどう感じたのか、その意見や考えを明確にすることを意味します。ですから具体的に説明すればするほど印象の内容ははっきりする一方、相手が自分と同意できる余地はますます狭まります次の例を見てください。


印象を具体的に説明しないケース

A:ねぇ、「マディソン郡の橋」見た。

B:見たわよ!すっごくよかったでしょ。本当に感動しちゃった。

A:そうそう。すっごくよかったわよね。クリント・イーストウッドとメリル・ストリープがかっこいいのよ。イーストウッドって老けてもなんであんなにかっこいいのかしらね。そう思わない?

B:思うわよ。本当にかっこいいもんね。あんな男日本にいないかしらね。いたら絶対捕まえるのに。

A:いるわけないでしょ。いても私たちなんか見向きもされないわよ。

この会話では、クリントイーストウッドのどこがどのようにかっこいいのか具体的な説明はまったくありません。説明抜きでaとbはクリントイーストウッドが“かっこいい”ことに完全に同意しています。もしかしたら“かっこよさ”の印象が二人のあいだではまったく違っているにもかかわらずです。では両者が“かっこよさ”の内容を説明する次の例を見てください。印象の内容を具体的に説明すると相互に同意するのがはるかに難しくなるのが分かります。


印象を具体的に説明するケース

A:ねぇ、「マディソン郡の橋」見た。

B:見たわよ!すっごくよかったでしょ。本当に感動しちゃった。

A:そうそう。すっごくよかったわよね。クリント・イーストウッドとメリル・ストリープがかっこいいのよ。イーストウッドって老けてもなんであんなにかっこいいのかしらね。そう思わない?二人は最後にはきちんと別れるでしょう。人生では二度とないかも知れない運命的な巡り合わせなのに、イーストウッドは別れざるおえない定めを男らしく冷静に受け止めて一人で静かに去ってゆくのよね。きっぱりと未練を捨ててゆくあの態度に私は大人の男の魅力を感じるわけよ。今の日本の若い男だったらすぐ泣いたり喚いたりしてあんなにきっぱり別れられないわよ。

B:確かに別れ上手な男って少ないわよね。でも私はあなたとは違うところに感動したの。イーストウッドの方もメリルストリープを誘うでしょ。確かキッチンで誘うと思うんだけど、その時の目つきが全然いやらしくなくて、逆に相手を本当に気遣っている気持ちが伝わってくるような暖かい眼差しなのよ。あんなさり気ない気遣いができる男ってそうざらにいるもんじゃないわ。私はそこにぞくぞくっとくるわけよ。

この例から分かるように、自分の印象を細かく説明すればするほど内容の細かな食い違いが相手との間に生じ、相手が同意できる余地は狭まります。イーストウッドが“かっこいい”と両者が思っていても、その印象の中身はかなり違っているのです。

したがって、もし相互に同意しているという前提を崩すことなく会話を進行するのであれば、印象はなるべく漠然とした表現にとどめることが必要になります。


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